書籍『まちがいだらけの少子化対策』(天野馨南子)
【おカネじゃなくて時間】
著者が本書で述べていることは概ね当たっているだろう。まず、少子化問題の本質は婚姻数の激減にあるとするのはその通りに違いない。したがって、合計特殊出生率(ややこしくて誤解の多い)に拘って、既婚者に対する子育て支援ばかりに偏重した対策は間違いである──これも当たっているだろう。さらに、著者が一貫して主張するアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を排したエビデンスに基づく対策の必要性にも大いに賛同する。
だが一点だけ、どうしても納得できないことがある。それは、少子化は女性の社会進出とは無関係とする点である。その根拠として著者は、専業主婦世帯より共働き世帯の方が子沢山である(と言っても一子か、二子かの差であるが)という統計を上げる。たしかに既婚者に限ればそうかもしれないが、だからと言って女性の社会進出が著者の主張する婚姻数の減少と無関係であることを説明するものではない。
私はやはり女性の社会進出が婚姻数の減少と密接に関係していると考えている。断っておきたいが、「だから女性は家庭にいるべきだ」などと言いたいわけでは決してない。むしろ積極的に社会に出て自己実現すべきだと考えている。
しかし女性が社会進出した結果、出産・育児が見込まれる結婚をためらう原因にはなっているだろう。何故なら、出産・育児が働く女性にとって必然的に負担となることが明らかだからだ。「この人だけは大丈夫、きっと家事や育児を均等に分担してくれるから」と思って結婚しても、その思惑通りになっていない例は周りに事欠かない。
だからと言って、子育て支援として給付金を出すなどというのも間違えている。子育てにはたしかにおカネがかかるが、それよりも──子供二人をひとりで育てた経験から言えば──子育てには時間を取られる。それが働く身としては何より痛い。子育ては何でも待ったなしの対応を迫られる。勢い、仕事は後回しにせざるを得ないのだ(仕事だって待ったなしなのに…)。
そうなることが分かっているから、働く女性は結婚しないのだと思う。逆に言えば、そうなることが分かっていても結婚という選択をした夫婦はそれを解決できるリソース(例えば祖父母にいつでも頼れる環境にある等)を持っているから、あるいは夫婦どちらか(多くの場合女性)が自身のキャリアアップを諦め(させられ)たからで、そうであれば著者の上げた統計の通り、子もたくさん産むのだろう。
これに対し、「若者の結婚願望は昔と変わらず旺盛だ」との反論もあるだろう。だが、「結婚したい」と漠然と考えることと、いざ実際に「結婚する」のとでは大きな乖離がある。キャリアアップを目指す女性であればなおさらだ。
したがって、親が子育てに時間を取られないようにする、あるいは取られることを寛容する社会の仕組みが少子化対策には必要であると私は考えている。もちろん、そんな仕組みが一朝一夕にはできないことは承知しているから、今暫く少子化は進むに違いない。

