映画「亀は意外と速く泳ぐ」(主演 上野樹里)
【「そこそこ」は誉め言葉?】
上野樹里と蒼井優以外の出演者は、さしずめ脇役オールスターズとでもいうべき面々である。それぞれに個性があり、いい味を出しているが取り立てて言うほどではない。そう、そこそこなのである。劇中に出てきたラーメン店サルタナの「そこそこラーメン」のように。
スパイ募集に応募した主人公のスズメ(上野樹里)は、スパイとして潜伏するために、目立たず平凡であること、フツーに暮らすことが求められる。しかし、これが意外と難しい。学力テストで平均点ぴったりの点数を取るのと同じくらい難しい。
サルタナのそこそこラーメンは、旨くもないけど不味くもない、目立たない味だ。妥協したときに、まああれでもいいかとする妥協味。流行りはしないが、つぶれもしないラーメン・サルタナ。
話は変わるが、私の前職で「そこそこ」という言葉を口癖にしていた同僚がいた。ある時、新規の顧客から相談したい物件があると言われて、その同僚と一緒に先方の会社に出向いたことがある。
「この物件は、弊社が満を持して取り組む一大プロジェクトでして、ご覧のように都内23区の駅前で、これだけのまとまった土地を開発できることはもうないでしょう」
と、先方の部長が広げた地図で計画地を指し示しながら自慢げに言った。なるほど、都心とは言えないものの、希少な土地ではあるなと思っていると、私の同僚がすかさず答えた。
「はい、確かにそこそこ良い土地ですね」
えっ、そこそこ? と思ったが、もう遅かった。あの瞬間の先方の部長の顔が忘れられない。
もちろん、その物件の受注は叶わなかったが、件の同僚は自分の口癖が原因だとは今でも思っていないだろう。なぜなら、彼はそれを誉め言葉として使ったつもりだからだ。サルタナの店主には秘めた実力があるし、そして亀にも意外と早く泳げる能力があるのだ。
画像引用元 日本映画データベース