映画「蘇える金狼」（監督 村西透　主演 松田優作）

昼は小心のサラリーマン、夜は巨悪に立ち向かう悪漢ヒーローを描く、ピカレスクロマンの金字塔。故・松田優作の映画の中ではこれが一番好きです（「家族ゲーム」も捨てがたいけれど）。

松田が演じる主人公・朝倉は正義のために悪と戦うわけではありません。彼も巨悪と同様にカネ、地位、美女を手にすることが目的です。これを初めて観たのは未だ学生の頃で、正直憧れました。当時体育会に属していたので、ボクシングジムに通う彼のように毎日の鍛錬に熱が入ったものでした。

果せるかな、彼はカネも地位も美女もすべて手中に納めます。しかし、そこで彼が気づかされたのは……。松田は生前、この映画を恋愛映画だと評したそうです。あの頃の私は、その言葉の真意がラスト10分とあいてまって意味不明でした。支離滅裂とも思えるラストも、今なら少しは分かるような気がします。欲しいものはすべて手にしたものの、その代償として愛を喪ってしまった──そうした男の心象を表現したのでしょう。

さて、その後の私は巨悪と戦うこともなく小心のサラリーマン人生を終え、案の定たいしたカネや地位を得ることもなく、おまけに愛も喪ったまま今日に至っています（涙）。