新書『フォッサマグナ』(藤岡換太郎)
【フォッサマグナは鵺】
皆さんはフォッサマグナって言葉、憶えていますか? あれはたしか中学校の社会科の授業で教わったのだと思いますが、「じゃあ、そのフォッサマグナってなんだ?」と問われると、はたと困ってしまいます。
えーと、日本列島は静岡と新潟の糸魚川を結ぶ線(いわゆる「糸静線」。ちなみに静岡県人である私は「静岡糸魚川線」と習いました)で東西が分断されていて……、とそれ以上のことは憶えていません。
加えて浅学なので、本書を読むまでは中央構造線(列島を南北に分つ大断層)と混同していたくらいです。私ほどではないにしろ、皆さんも大同小異ではないでしょうか?
それもそのはず、これを読むと現代の専門家ですら、その構造や成り立ちがよく分かっていないようなのです。著者は「鵺」のように捉えどころがないと言っています。ましてや50年以上前の田舎の中学校教師が分かっているはずもなく、それがそのまま私(皆さんも?)のいい加減な知識となって表れているのでしょう。
本書を読んで分かったことは、フォッサマグナは列島を東西に分ける大地溝帯で、その西端は糸静線と呼ばれる大断層だが東端は曖昧であること、フォッサマグナの南と北では性質が異なること、世界的に見ても類例がないことなどです。しかし一番面白かったのは、終盤に我が国の東西文化との関係に言及しているところでした。
たとえば電気の周波数が、フォッサマグナ(特に糸静線)を境に東が50Hz、西が60Hzと理解している人が多いが(私もその一人でした)、それはフォッサマグナと周波数が直接関係しているのではなく、明治期に発電機を輸入した際に東京ではドイツのそれを、大阪ではアメリカのそれを導入した結果、それぞれの周波数になったというのです。そして、その両者が勢力を拡大していった結果、地形の急峻な糸静線付近で互いを分かち合ったというのが真相のようです。
それと、東では濃口醬油が好まれ、西では薄口のそれが好まれる点についても、にべもなく「フォッサマグナとは関係なし」としています。昔、テレビ番組『タモリ俱楽部』で、駅そばの味はどこで変わるかというのを新幹線の各駅で検証していたのを思い出します。たしか東京から行くと豊橋辺りで一旦変わり、その後また東の味に戻って、岐阜羽島で完全に西寄りになるという結果でした。たしかにフォッサマグナとは関係なさそうですね。
しかしながら、方言や苗字の読み方が東西で大きく異なることや表土の違い(東は黒い土、西は白い土)なども指摘していて、何らかの精神風土や文化への影響にも含みを持たせています。
著者は鵺退治の源頼政にはなり損ねたと謙遜していますが、鵺は鵺であるうちがロマンですよね?

