小説「TUGUMI」(吉本ばなな)
【小説に求めるリアリティ】
吉本ばななを支持する女子は多いから、おそらく今回は彼女たちから大叱責を頂くことになりそうだ。でもまあ、ジジイの戯言だと思って以下おおめに見てくださいな。
小説を支えるのは、やはりリアリティだと思うのである。以前なにかで、SF映画では物理学の常識を破って良いのは3つ(5つだったかな?)まで、というのを読んだ覚えがある。あまり何でもありにしてしまうと話にリアリティがなくなるからだろう。
それと同じようなことが小説でも言えると思う。もちろん、最初からあり得ない話として楽しむファンタジーのようなものは別だが、一般的な小説であればやはりそこに現実味がないと話に入り込めない。あるいは、せっかく入り込んだのに、急に置いてけぼりにされたような気分になってしまう。
この小説ではまさにそれを感じた。読み進めながら物語の中心人物であるつぐみの愛されキャラを楽しんでいたのに、途中であまりの非現実的な設定や描写に一気に興ざめしたのだ。
一つは、つぐみの彼氏・恭一が、フレンドリーで女子受けする優しい性格にもかかわらず、男同士の殴り合いの喧嘩まで強いという設定。おまけに親が金持ちだという。そんな奴は少女漫画にしか存在しない。室内犬は野獣に勝てないのだ。
でもまあ、それは物理学的に、いや物理学はさておくとしても絶対にないとまでは言えないし、恭一──彼は私には無いものばかり持っている──への妬み・嫉みの類だと言われればそれまでだ。
だが、もう一つはどうだろう。それは、病弱なつぐみが、男子高校生が自力で出られないほどの穴を掘ったという描写。そんな深い穴を、ショベルカー等の重機を使わずに人力だけで掘るなんて、屈強なプロの土木作業員だって無理な話である。
以前、とある女性に「物理学の常識に反しているよね」と指摘したところ、
「そんなことはどうでも良いのよ!」
と叱られた。
「でも、リアリティがさあ……」
「あの話で大事なのは、そのリアリティじゃないわよ‼」
彼女も吉本ばななファンだった。
たしかに、そんなことが気になってしまうのは、私が職業柄染み付いた余分な知識(土の単位体積重量は約1.8トン/㎥もあるのだ!)を持つからだが、そういう私のこだわりポイントはフツーの人はどうでも良いらしい。
でも、人それぞれあるはずだ。そこを外されると、途端にリアリティを感じなくなるというポイントが。あなたにだって、あるでしょ?(だから怒らないでね♡)