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書籍「みみずくは黄昏に飛びたつ」(村上春樹・川上未映子)

書籍「みみずくは黄昏に飛びたつ」(村上春樹・川上未映子)

【ただの一軒家ではあらない】

対談中、村上春樹が近代小説を一軒家に例えて解説しているところが印象的です。村上が言うには、一軒家の1階というのはリビングが中心で、そこは客を招いたり家族同士であってもセミパブリックなやり取りがなされたりする空間だと位置付けられます。一方、2階に上がると、そこには寝室などがあって比較的プライベートな空間が存在する。さらに近代小説という一軒家には地下1階があって、そこで人は普段他人にはもちろん、自分自身にさえ見せないような自分をさらけ出して懊悩する──、近代小説というのは1 階から2 階、さらには地下1 階までを行ったり来たりするのだと解説しています。これについて川上未映子は2階がセルフ(自己)空間、地下1階はエゴ(自我)空間だと指摘します。

私はそこを読んで、この「一軒家理論」は当時の自分の仕事にも応用できると考えました。一軒家の1階部分は、日常の業務を遂行するところです。オン・ザ・ジョブトレーニングがなされるところと言っても良い。2階は業務と直接関係のない知識を貯め込む場所で、本や新聞等を読む空間です。あるいは具体の業務で得た知識(特殊解)を一般解に置きなおす作業をするところかもしれません。

一つの仕事を長くやっていれば、誰でもそれなりのプロにはなれます。でもそれだけでは「スキル屋」どまりです。1階にとどまっている人です。村上は「作家というのは文章のプロだから文章技術を持っていて当然。だが技術はあくまでも手段。技術を組み合わせ、統合するものが大事」だと言います。その組み合わせたり、統合したりするものを得るには、具体の業務と無関係な知識を2階で学んで、社会のニーズや自らのシーズを知る必要があります。つまり自分のやっている仕事の社会的な意義や役割を理解し、その後の展開を想定したうえで、独自の組み合わせ・統合によるノウハウにまで高めるためには、1階と2階を行ったり来たりせねばなりません。

加えて、村上の「一軒家理論」には地下1階もあることを忘れてはいけません。私たちが携わる一般的な仕事にとって地下1階とは何でしょうね? 近代小説でいう自我に相当する部分とは──。

私は人間性だと思うのです。その人の持つ人間性。ここで言う人間性とは、人当たりの好さとかではなくて人としての器量(の大きさ)です。どんなに統合した技術や知識を持っていたとしても、最後はその人の人間性──人としての器量──が仕事に表れるのではないでしょうか。頻繁に地下1階にも降りて自分の人間性を見つめ直す必要がありそうです。

さらに村上作品には地下2階があるのだとか……。

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