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映画「彼女の人生は間違いじゃない」(主演 瀧内公美)

映画「彼女の人生は間違いじゃない」(主演 瀧内公美)

【被災地の仮設住宅と渋谷の街の喧騒】

東日本大震災から何年か経ったある日、上司と一緒にいわき市(この映画の舞台)での復興に係る会議に出たことがある。その上司の昔馴染みのお客さん(某デべOB)から「専門家として列席して欲しい」と頼まれたとのことだったが、会議の目的も趣旨もよく聞かされていなかった。
 
当時の私はどんな会議でも出席したら一言は発言しようと心がけていたのだが、その会議では何も言うことが出来なかった。出席者──大学教授、弁護士、その他多種多様な業種の人たち20名余り──の発言がてんでんばらばらでまったく噛み合っておらず、話しの入りようがなかったからだ。後にも先にもあれほど理解できなかった会議はなかったように思う。
 
「なんだったんでしょうね、あれは」
 
東京へ帰る道すがら、私は同行した上司に不平を言った。
 
「皆、補助金目当てで群がって来てるのさ。今日のところは、どれだけ自分の取り分を多くするかのさや当てをしたんだよ」と聡明な上司は解説してくれた。
 
以後、私たちがその会議の案件に関わることはなかった(会社として関わらないものと決めた)が、私はあの時この国の深い闇を垣間見たような気がした。
 
閑話休題。3.11──あの日が来るまでは、この映画の登場人物たちも我々と変わらぬ当たり前の日々を過ごしていたはずだ。笑いの絶えない幸せな毎日だったかどうかは分からない。恐らくそんなことはない。だが、普通に喜怒哀楽のある毎日だったのだろうと想像する。
 
それがあの日を境に、街の風景も人の心も一変してしまった。時間の経過とともに街は少しずつきれいになっていっても、汚染土壌を詰めたトン袋だけが増えていく。まるで、人の心に沈殿する澱のように。
 
この映画の登場人物のそれぞれを観ていて、あの会議で覚えた違和感──すっかり忘れていた──を唐突に思い出した。
 
だが、この国に暮らす以上、決して他人事ではない。明日にも我々の身に起こり得ることなのだ。被災すること自体もだが、有象無象に群がられることも……。映画の中で映される被災地の仮設住宅と渋谷の街の喧騒はそのメタファーのように思えた。渋谷の再開発に傾注していた私が街づくりの専門家として、あの会議に呼ばれたのも何かの巡り合わせだったのだろうか──。
 
画像引用元 映画ポップコーン
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