映画「ちひろさん」(監督 今泉力哉)
2024
2
7
映画「ちひろさん」(監督 今泉力哉)
【分かり合えたと思ったその瞬間にすれ違う】
劇中、主人公ちひろ(有村架純)が風俗嬢をしていたときのシーンで、ちひろに膝枕された客が呟く。
「人は皆、人間という箱に違う星の人の魂がそれぞれ入っている。だから分かり合えなくて当たり前……」
たしかに言い得て妙である。たとえ親兄弟であっても所詮、違う星の住人なのだ。分かり合えるわけなどない。
私の人生を振り返ってもそう思う。父も母も兄も同じ星の住人だったとは思えない。おそらく死んだ妻ですらも──。娘や息子はそうであって欲しいとは思うものの、彼等からしたら、同じ星? とんでもない、と思うのだろう。
まれにこの人は同じ星の人ではないか、と思えることもある。とりわけ恋愛初期の男女はそう勘違いしがちだ。だが、早晩違う星の住人であることを知る。
それでも非常に少ない確率で、同じ星の住人と思えることもある。ちひろにとっては、幼い頃に出会った元祖ちひろ──ちひろは彼女の名を拝借して源氏名とした──と、弁当屋の目を患った年老いたおかみさんの二人だ。
だが、そうした同じ星と思える人と出会い親しくなれたからと言って、必ずしも居心地が良いわけではないのだ。それは、どこか自分を見透かされているような居心地の悪さかもしれない。あるいは、そう思った瞬間にすれ違いが始まるからかもしれない。
親しくなればなるほど、いずれやっぱり違う星の人だと思う瞬間がやってくる。分かり合えない方が自然で当たり前──そう思って生きる方が楽なのだ。たとえ、どんなに寂しくてもだ。
いずれにしても、ちひろは旅立った。分かるような気がする。
画像引用元 ひとシネマ