書籍「新しいDX戦略」(内山悟志)
【今後の日本はこれ次第】
先日、クルマの名義を変更するために、自動車検査登録事務所というところに行って手続きを済ませました。手続きには印鑑証明書が必要だと聞いていたので、途中で別の役所に寄ってそれも取得して、件の事務所に着くと長蛇の列。
整理券を貰って待つこと一時間でやっと私の番になって、職員から手続きに必要な書類3~4枚の記入方法のレクチャーを受けました。しかし、記入する内容はほとんど住所・氏名と車検証記載事項の転記ばかりなのです。
「これって、全部これまでに登録してあることばかりじゃないか!」
と言いたくなりましたが、文句を言っても仕方ないので指示されたとおりに記入して提出すると、今度は職員の方がご苦労なことに私のような悪筆の手書き文字を解読して、印鑑証明書や車検証の内容と整合しているか、つぶさにチェックするのです。
そんなこんなで結局、朝一番で出かけたのに、帰ってきたのは昼をとっくに過ぎていました。あれなどは、本書にあるアフターDXの世界なら、自宅で一瞬にして終わるのではないでしょうか。ほとんどが既に登録してあることの照合なのですから。逆説的ではありますが、この国はまだまだ成長の余地が残されているように感じました。少なくとも、国家公務員試験を通ったような優秀な人材は、悪筆文字の解読よりももっと生産性のあることが出来るはず。
まさにその通りだから、国も今DXを推し進めているところだと言うのでしょう。だけど、これが例のマイナカードにまつわる諸問題に代表されるようにお粗末としか言いようがありません。
私は数か月前に私の会社(社員は私一人の小さな会社です)の今年度の給与額を定める「算定基礎届」という書類を日本年金事務所に提出しようとしました。これまでは郵送していましたが、オンラインでの届け出を推奨しているというので、初めての試みとして自宅でやってみることにしました。ところがマニュアルに従い、一つひとつ必要事項を所定欄に打ち込んでいっても、どうしてもうまくできません(何度やっても途中で当初の画面に戻ってしまいました)。
格闘すること小一時間。とうとう降参して、電話で問い合わせることにしました。どうせまた「ただいま電話が大変混みあっています。しばらくお待ちいただくか……」とか言って、通じないんだろと覚悟していたのですが、思いのほか早く応対され、うまくいかなかったところを解決してもらい、手続きを済ませました。
「でも、そんなことマニュアルのどこにも書いてないですよね?」と私が言うと、
「確かに書いてないですね」と片言の日本語で応対してくれた電話口の外国人と思しき方は申し訳なさそうに答えていました。
デジタル対応するために、電話というアナログを通してしか解決できないというのは言うに及ばずですが、そもそもマニュアルを見ながら手続きさせるという発想が間違えているように思います。あれが、もし民間の手続きであれば、スマホの画面を直感的に次々にタップしていけば、簡単に終わるはずなのになあ、と思いました。
たぶん、国がDXの大号令をかけても、現場の長(往々にして中高年)が頭を切り替えられていないのだというのは、本書の指摘の通りだと思います。そうした方々は慣れ親しんだ従来のアナログ対応(成功体験でもある)から、上に言われて渋々切り替えている様子が、ああした中途半端なやり方に表われているように感じます。
つまり、日本はDX以前のIT化すら進んでいない状況のように見受けられるのですが、途中で触れたように本書にあるような一つひとつのことが徐々にでも達成されていけば、加速度的に生産性が高まっていくようにも思うのです。
そのためには、我々がマイナカードの小さな問題にこだわっていてはいけないと思うのですが、いかがでしょうか?