映画「サマーフィーリング」（監督 ミカエル・アース）

【忘れたわけではない】

いくら愛していた彼女が突然死んだからと言って、その後何年も忘れられずに引き摺るなんてことがあるだろうか。お安い少女マンガじゃあるまいし……と思うのである。

いくらだってあるだろ、という声が聞こえてきそうだ。そんな話は少女マンガだけでなく、歌にもよく歌われているし、それをテーマにした小説だってたくさんあるに違いない。

私自身、別れた彼女を完全に忘れるのに、10年近く要したこともある。しかし、それは今も地球上に存在している女性に対してであって、死んでしまってこの世にいない女性に対してではない。

現代人は忙しいのである。存在しない女性に対し、いつまでも悲しみに暮れている暇はない――と、最愛の妻を亡くした経験者としては思うのである。もちろん、妻のことを忘れたわけではない。が、引き摺ることはなかった。

もっとも私の場合は突然ではなかったし、二人の幼子もいたから事情としてはだいぶ違う。とにかく顔を上げて前に進む必要があった。だがその分、悲しみと向き合おうともしなかったのかもしれない。

ロレンスのようにちゃんと悲しみと向き合えば、やがてそれは精算され、次の幸せが訪れるのだろう。ゾエはまだ悲しみの中にいる。私も――？

画像引用元　ヨーロッパ映画を観よう！