News 2026.04.19
2026ゴールデンウイーク営業日のご案内
佐鳴湖近くの小さな図書館
BLOG

短編小説「そんなに好きってわけでもない友達」(安壇美緒:文芸誌『GOAT Autumn 2024』に収録)

短編小説「そんなに好きってわけでもない友達」(安壇美緒:文芸誌『GOAT Autumn 2024』に収録)

【好きってわけでなくても友達は友達】

虚言癖のあるミミは、語り手の「私」を突然訪ねて来ては「私」の日常や価値観を揺さぶる、なかなか厄介な存在だ。「私」とは、もとより住む世界が違うのである。

私の学生時代、同じ学科にKという友人がいた。Kはクラスで一番の人気者で、彼の周りにはいつも人が群れていた。

私はと言えば当時、体育会の部活動にばかり精を出して授業もサボりがちだったので学科の同級生との付き合いは薄く、Kとの関りもほとんどなかった。にもかかわらず、ある日突然Kから電話があった。

「おい、今からお前んち、行っていいか? 一緒に明日の試験勉強しようぜ」と。

一瞬私は、自分の試験対策がKの訪問で狂うな…と思った。この「私」がミミの突然の来訪でレポートの課題が出来なくなるのを恐れたように。だが一方で、ミミの訪問を嬉しく思う「私」が居たように、私も人気者のKを歓迎していたのだ。

あのとき、何故Kが私に電話してきたかは分からない。というのは凡庸な成績の私と一緒に一夜漬けをしても何も良いことはないはずで、彼にはもっと頭の良さげな取り巻きが一杯いたからだ。実際、ほとんど勉強などせず、酒を呑みながらエロ話をして夜を過ごしたのだった。

以来、たびたびKは私のアパートを訪ねてくるようになった。もちろん彼にとっては私などone of them──つまり多くの友達の一人に過ぎなかっただろう。たまたまつるむ相手が見つからないときに、私に声をかけてきていたのに違いない。

あれはたしか三年生次のことだ。伊豆の土肥温泉に泊まり込みで行われた野外実習のときに、Kはそこに来ていた観光バスのバスガイドをナンパして、遠距離恋愛を始めた。その女性は私の郷里・浜松の人で、Kからよくそののろけ話を聞かされ、閉口したものである。

おそらくKは、このミミと同じで寂しがり屋だったのだろう。もちろんKはミミのように虚言によって人をつなぎとめるようなことはしなかったが、人気者ゆえの孤独みたいなものがあったのかもしれない──。

だが彼が本当に寂しがり屋だったのか、あるいはあのとき何故電話をしてきたのかも、永遠に確かめる機会は失われた。四年生の秋に彼は急死してしまったからだ。

あの頃の私は体育会での交友に重きを置き、「そんなに好きってわけでもない」──つまり好きとか嫌いとかを意識することなく、何となくKと付き合っていたが、彼が死んだ日の夜、二人でよく行った焼き鳥屋のカウンターで私は顔を突っ伏してひとしきり泣いた。

以来、友達と呼べる存在は居ない。

PAGE TOP