映画『違国日記』(主演 新垣結衣 早瀬憩)
【涙を出すには時間がかかる】
15歳の少女・朝(早瀬憩)はある日、交通事故で両親を亡くす。あまりに突然過ぎて、涙は出ない。悲しいのかすら分からない。
遺体確認をした警察署の暗い廊下で、そんな朝に母の妹・槙生(新垣結衣)──生前の母と没交渉だった小説家の叔母──は、
「別にヘンじゃないよ」と無表情で言う。
葬式の直来では、引き取り手のいない朝が親戚中をたらい回しにされそうな雰囲気である。見かねた槙生は彼女に、うちに来ればいいと言う。
「あたしは貴方の母親が心底嫌いだった。だから貴方を愛せるかどうか分からないけれど」
そうして始まった共同生活のなかで、二人は不器用ながらも少しずつ心を通わせていく──。
親しい人間の予期せぬ死に悲しいのかどうか分からないのは、たしかにヘンじゃない。もちろん、悲報に接してその場で泣き崩れたりするという反応が一般的かもしれない。がしかし、朝のように突然の喪失に戸惑い、どう反応してよいのか分からないのも決して特別なことではないように思う。
というのは学生時代、学科でもっとも仲の良かった友人Kがランニング中に突然死んだのを知らされたとき、私もまったく実感がわかなかった。
受け入れるのに時間がかかったのだと思う。Kの実家に連絡したり、他の学友に連絡網を回したりして、その日を過ごしたはずだが、何だかフワフワしてほとんど憶えていない。
憶えているのは──、夜遅くになってKと二人でよく呑みに行った焼鳥屋を訪れたときのことである。
大将とママでやっているカウンターだけの小さな店で、学生だからといつも二人は私たちに良くしてくれていた。
「珍しいね、今日はひとり?」
「いや、あいつ…今日死んじゃったんスよ」
しばらくの間、その日あったことを上気して二人に話していた。だが、話が途切れると急に涙が込み上げてきて、カウンターに突っ伏したまま私はひとしきり泣いたのだ。
この物語の朝も、一年ほど経って両親の死んだ事故現場を訪れ、やっと泣くことができる。槙生に抱かれながら。
画像引用元 MOVIE WALKER PRESS

