テレビドラマ「アブセンシア〜FBIの疑心〜 シーズン1」(主演 スタナ・カティック)

【愛する人を最後まで信じられますか?】
これもFBIモノであるが、以前紹介した「FBI特別捜査班」シリーズとはだいぶ趣きが異なる。もちろん、主人公エミリーが渦中にある連続殺人事件の真相をつきとめるのが主題ではあるのだが、その過程でウエイトが置かれるのはエミリーのアイデンティティの解明である。
元FBI特別捜査官である彼女はかつて連続殺人事件の犯人を追って行方不明となり、後に死亡したと推定されたが、6年後のある日突然生還する。その間の記憶はほとんどなく、断片的に思い出すのは蓋をされた満水の水槽の中で溺れそうになってもがく自分の姿だけだ。
しかも、FBIとボストン市警の合同捜査チームは、エミリーの生還と時を同じくして再び動き出したくだんの連続殺人事件は彼女が犯人ではないかと疑い、捕えようとする──。
その顛末を視るだけも十分に面白いのだが、このドラマが秀逸なのは、エミリーが生還してみたら、愛すべき夫ニック──彼はFBIの同僚だった──は既に別の女性アリスと暮らしていて、失踪時は未だ幼かった息子フリンも今はもう少年となり、アリスにすっかり懐いてしまっているという設定である。
これはもちろんエミリーにとって辛い状況に違いない。失踪中の記憶はなくても、それ以前の記憶はあるのだから夫や息子のことは変わらず愛している。
だがそれは夫のニックにとっても受け入れ難いほど混乱する状況ではないだろうか。いや、もちろんエミリーが生還したことは嬉しいに決まっている。彼女の失踪当時、どんなにこの日を待ち望んだことだろうか。しかしその後、死んだものとして心の整理をつけ、今はアリスとフリンの3人で幸せに暮らしている。しかも彼は合同捜査チームの一員として容疑者であるエミリーを追わなければならないなのだ。
とはいえ、エミリーのことは嫌いになって別れたわけではないから、生身の彼女に接すれば愛おしい気持ちにならないではいられない。ましてや、いくら状況証拠が出揃おうと連続殺人事件の容疑者として扱うことなど……。
連続殺人事件の顛末やエミリーのアイデンティティの真相も気になるところだが、ニックが最終的に選ぶのは果たしてエミリーなのか、アリスなのか──。そこでのポイントは、愛する者をどこまで信じられるかという古くて新しいお馴染みの命題である。貴方ならどちらを選びますか?
画像引用元 Safari Lounge