映画「流浪の月」(主演 広瀬すず 松坂桃李)
【広瀬すずは幸薄い役が嵌まる】
2023年の日本の合計特殊出生率(一人の女性が生涯のうちに生む子供の数の平均値)は1.20だったそうで、いよいよ少子化ひいては人口減が深刻になっている。もっとも、出生率の右肩下がりの傾向は先進国一様で、人口維持に必要な2.06~2.07を長い間上回っていたアメリカですら、ここ数年は大きく割り込んでいる。お隣の韓国ではなんと0.72である。
こうした世界的な傾向の背景には、子育てに関する費用の増加、結婚や出産を巡る価値観の変化などが指摘されている。前者を踏まえ、日本の政府は無い袖を無理やり振ってでも出産や育児への支援策を拡充させようとしているが、それらがすでに充実しているフィンランドなども同様の傾向にあることに留意する必要があるだろう。
したがって、後者の結婚や出産を巡る価値観の変化が主因だと考えられるが、私は結婚や出産というよりも家族観そのもの、さらには人間の関係性がこの10年前後で大きく変わったことだと見ている。
それは、これまで生きていくうえで優位とされていた共同性──夫婦や家族などに代表される──のメリットが、テクノロジーの発達によって不要なものになりつつあるということだと思う。リアルでディープなつながり(=関係性)を持たなくても、ネット上のサービスが代替してくれるのである。
さて、ここまでこんなことを長々と書いてしまったのは、この映画を観て改めて家族とは何なのだろうと思ったからだ。終盤、松坂桃李演じる文は
「こんな病気のせいで誰ともつながれない……」
と更紗(広瀬すず)に絞り出すように言ったが、私は先に述べたような現代にあって、彼らほど真に深くつながっている人たちはいないように思えた。そしてそれはセックスが介在しない彼等だからこそ、どこに流浪しようといつまでも保たれる関係性なのではないか──。
それにしても、広瀬すずは「三度目の殺人」でもそうだったが、何故か幸薄い役が嵌まるようになったなあ。
画像引用元 ムビコレ