TVドラマ「世にも奇妙な物語」(ストーリーテラー タモリ)
【伊豆下田の世にも奇妙な合宿所~その1~】
あの独特なオープニングのテーマ曲が流れると、まだ幼かったウチの息子はそれだけでもう泣き出したものです。そして、エンディングのタモリの印象的な言葉。
「次に奇妙な世界の扉を開けてしまうのは、あなたかもしれません」
長く生きていると、ごくたまにですが不可解な出来事に遭遇することがあります。そのほとんどは毎日の生活の中で忘却の彼方へと追いやられてしまいました。しかしひとつだけ、今でも憶えていることがあります。
最初に断っておきますが、私は科学至上主義者と言って良いと思います。非科学的なものは一切信じません。無神論者であり、宗教心など皆無に等しいので、死んだ妻の墓参りすらここ何年も行っていません(だからと言って妻を忘れたわけではありません)。もちろん、霊魂の存在など信じていません。したがって、これからお話しすることは自分でも未だに半信半疑なのですが……。
あれはたしか──大学4年の7月のことでした。大学時代の私は体育会合気道部に所属しておりまして、そのとき夏の合宿地として伊豆下田を訪れ、道場付きの民宿に連泊していました。最近のことはわかりませんが、当時の体育会武道部にはまだ上下関係の厳しさが残っていて、「1年生はゴミ、2年は奴隷、3年平民、4年天皇、OB神様」と言われたものです。
したがって、当時4年生だった私はその地位を王侯貴族のごとく合宿所で満喫していました。昼は道場で1年生、2年生をシゴキ倒し、夜になれば毎晩部屋で3年生を侍らして酒盛り──といった具合です。
そうしたなか、あの忌まわしい出来事は合宿最後の夜に起きました。打ち上げと称した宴会で、例によって1年生、2年生に酒を呑ませまくり(今なら訴えられそうですが、当時はフツーのことでした)、早々につぶして、学年別に振り分けられた部屋に引き上げさせました。
私たち4年生は、その後も3年生に酌をさせながら麻雀を打っていました。日付も変わり、そろそろお開きにしようかという頃、突然──、
「ギャーッ」
という夜陰を切り裂くような叫び声に牌を持つ手が止まりました。
「なんだ? どうした?」
声の聞こえた1年生の部屋に皆でドカドカと行ってみると、寝床から体を起こした彼等が寝ぼけ眼を擦っているところでした。点けたばかりなのか、蛍光灯の薄暗い光が揺れていました。
その下で一人だけ、Nという1年生が背中を丸め体育座りをして小刻みに震えています。そして彼は絞り出すように言ったのです。
「先輩、ユーレイが出ました……」
(以下、その2に続く)
画像引用元 チバテレ