漫画『お家、見せてもらっていいですか?』(佐久間薫)
【家と街がつながる自由研究】
この漫画の主人公・家村道生は、母親思いの優しい少年である。通っている小学校ではいつも一人でいるが、そんなことは気にしない。無理して友達をつくるより、自分の好きなことをして過ごす方が大事だと知っているからだ。
彼の好きなこと、それは近所の特徴ある家々を訪ね歩き、家の中を見せてもらうことである。そして、そこで知った家にまつわる知識や間取りなどの情報を自由研究としてまとめている。
私も子供の頃、新聞の折り込み広告にたまに入ってくる建売住宅等の間取り図を見るのが好きだった。それらを見ながら、「大人になったら…」と自分が将来住む家を夢想したのだ。
しかし、そうした夢想は大人になっても夢想のまま時は流れた。昭和の住居すごろくは、アパートなどの借家住まいに始まり、賃貸マンションから分譲マンションを経て、最後に戸建て住宅を建てて“上がり”だったが、私が多くを過ごした東京圏では昭和から平成・令和へと時代が進む中で土地の値上がりが著しく、土地の所有を前提とする戸建て住宅は夢のまた夢となってしまった。
もうマンション住まいにすっかり慣れ親しんで、戸建て住宅など夢想すらしなくなっていた頃、あるときリタイア後の私の居場所はこのマンションなのだろうかと思い始めた。それが、現在の私設図書館の運営につながるわるわけだが、その詳細については今までも再三述べているので、ここでは触れない。
ここで言いたいのは、その疑問によって親の遺してくれた土地のある郷里・浜松にUターンすることにしたのだが、それはなにも戸建て住宅の夢を叶えるためではなく、あくまでも私設図書館の開設のためだったということである。
だが、結果として私は戸建て住宅を建てることになった。1階が図書館で2階が私の住居の戸建てである。建築基準法の分類では店舗併用住宅となるが、私の感覚では住宅併設私設図書館なのである。要は、私の住まいはオマケなのだ。
さて、この漫画は家の自由研究を通した道生少年の成長物語と言えるが、訪ねられたそれぞれの家の住人もまた純粋な道生の好奇心や問いかけなどを鏡として、今の自分の生活や自分自身を見つめ直すきっかけとする。
最後に道生は、訪ねた家の人たちや街の住民たちに自由研究の成果を披露する。そのことが、彼のみならず人々が改めて繋がる触媒となる。
私の居場所もそんなところであって欲しいと願っている。

