書籍『BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相』(ジョン・キャリールー)
【稀代のペテン師?】
本書はサブタイトルや表紙の帯にある通り、シリコンバレーのスタートアップ企業セラノスの不正行為──指先から採る僅かな血液で数十種類の検査ができる革新的技術と喧伝された──の真相が記されている。いや、これは不正行為というようなものではない。何の根拠もない嘘八百で莫大な資金を集め、実際に多くの人の健康に深刻な影響を与えていたベンチャー企業の一部始終である。
日本の大企業などで不祥事が発覚すると、トップがその事実にどれほど関与していたかがしばしば焦点になる。多くの人はそのような場合、経営陣が知らないわけはないだろうと思うかもしれない。
だが私はほとんどの場合、多分知らなかったか、知っていたとしても事が大きくなる直前ではないかと思う。
というのは日本の企業の場合、なにか大きな問題が発生したときに上に報告しづらい構造というか、構図があるからだ。つまり、それはこういうことだ。問題を抱えた担当者(末端の担当者ではなく、多くの場合その報告を受けた中間管理職)の頭にはまず上司の顔がよぎる。往々にして自分のことを認めてくれて、今の地位に引き上げてくれた上司である。その上司の困った顔、あるいはしかめっ面が目に浮かぶ。
私は某有名企業の部長が、
「そんな話は俺に持ってくるな! 俺が困るのが分からんのか‼」
と部下の課長を叱責する場面に遭遇したことがある。
好意的に見れば問題解決能力を鍛えているとも言えるが、普段からそのように躾けられていれば尚更、迷惑をかけられないと思い込む。自分で何とかするしかないが、やれることは限られている。
追い詰められた結果、担当者はなかったことにしようと不正行為や隠ぺいに走るのだ。何層ものそうした上下関係が存在する中で、経営陣はそんなこと知る由もない。
だが本書を読んでいて、さすがアメリカ、さすがはシリコンバレーの経営者。自ら詐欺行為を先導するのか──とある意味感心(?)した。だが、ちょっと待てよ。いくら何でも、それはちょっと無理があるだろうとも思った。彼らだってこのままでは早晩バレて、大問題になることは分かっていたはずだ。
単なる厚顔無恥なのか? いや、そうではあるまい。結局、彼らも日本と同じで都合の良い情報しか上がってこなかった、あるいは聞こうとしなかったのではないだろうか。
耳障りの良い報告ばかりを聞く中で、元来「大風呂敷を広げれば技術は後からついてくる」風土のシリコンバレーの経営者が自らの大風呂敷を事実と混同していたのではないか。でなければ、自ら崖に向かって猛スピードで突っ走るようなことはしないはずだ。

