書籍「波の絵、波の話」(稲村功一・写真 村上春樹・文)
【実に村上春樹的な写真集】
今や当館の蔵書数は1万冊になんなんとしている。店頭に出ている本はおそらく4~5千冊なので、それ以上の本が私の居宅でもある2階を含め、バックヤードにある。先日、久しぶりに入れ替えようと、そのバックの本棚(図書館らしく閉架書庫と言うべきか)を眺めていて見つけた本がこれ。
──こんな本、あったっけ?
元々の私の所蔵本じゃないのは確かだが、まったく記憶にない。たぶん開館間もない頃に寄贈頂いたものなのだろう。
最初に目についたのは、背表紙のタイトルの「波の絵」という文字。昔、気に入った波の写実画をベッドのヘッドボードの上に飾っていたことを思い出した。
「これ、誰の絵なの?」
初めて私の部屋を訪ねた人は皆、そう訊いたあの絵。
「さあ、誰だろう。何となく好いと思って買っただけだから……」
もちろんコピーだったけど、ホントにいったい誰の絵だったのだろう? この本に載っているかもな……、そんなことを思いながら手に取った。
開いてみると、それは画集でなく、波の写真集だった。ところどころに写真とマッチした洋楽の歌詞(日本語訳)を載せている。頁を捲る手が止まったのは、「SOMETIMES I’M HAPPY」という曲──ジャズのスタンダードだろうか──の最後の歌詞。
「やれやれ僕は要するに君といたいのさ」
ハハ、これじゃまるで村上春樹だな。
「So what can I do I’m happy when I’m with you」
をそんなふうに訳してしまうなんて、実に村上春樹的だ。えっ? まさかと思い、表紙を見直すと「波の絵、波の話 稲越功一・村上春樹」とある。あらためて最初の方の頁を見ても何の説明もないが(「はじめに」もなければ、目次もない)、どうやら村上春樹が洋楽を再解釈して訳しているようだ。
中ほどには、彼の書き下ろし(?)の散文がいくつか。これらがまた実に好い感じで村上春樹的なのである。
「そんな具合に、都会にはスーパー・マーケット的な雨が降る」なんてね。
ところで、私のあの絵はどこに行ってしまったのだろう。