書籍「彼岸の図書館」(青木真兵 青木海青子)
【ヘーゲルとか要らなくね?】
ネット上で見かける書評では絶賛しているものが多いようですが、私にはさっぱりでした。したがって今回は、反面教師的な意味でのオススメということになります。
まず、現代の成長を前提とした都市とそれを支える経済社会への批判が延々と続いて辟易とします。どうやら目指しているのは共生の社会経済のようですが、それを人口1700人の東吉野村に著者が開設した私設図書館でどう実践しているかはほとんど書かれていません。
思うに頭でっかちになり過ぎです。途中、農業の実践者が「農業はイデオロギーや脳で支配できない」と指摘する場面がありますが、農業だけではないでしょう。「土着」を語るのにヘーゲルなんて持ち出す必要はありません。ただ地域に密着し、地域の人々に寄り添えば良い。なのに、ここにはその肝心な旧来から住う地域の人たちは一人も出てこないのです。彼らは一体誰と共生したいのでしょうか。
地方移住が定着しないのは、地域の人々に寄り添うことが思いの外難しいからでしょう。 私も東京から浜松に移住するにあたり、ぜひその辺を勉強したいと思って本書を読んでみたのですが、何ら参考にはなりませんでした。
そうした著者の姿勢は「おわりに」で、「東吉野村の皆さんに」ではなく「東吉野村の移住者の皆さんに感謝している」と述べたところに全てが表れています。狭い仲間内で盛り上がっていても仕方ありません。
そこには、いつまで経っても辞めた会社の批判ばかりして、自分の今を語れない奴と同じ匂いがして、全く好きになれませんでした。おそらくこの本に賛辞を送っている人たちは、「脱都会」を夢見ながら、それを果たせず都会で疲弊した毎日を送っている人たちではないでしょうか。しかし、脱都会を果たし3年目を迎えた者としてはっきり言います。地方移住にヘーゲルもイデオロギーも必要ありません。