映画『金子差入店』(主演 丸山隆平)

【こんな商売があっても良い】
この映画は俳優陣の演技がとても好い。なかでも、主人公・金子を務めた丸山隆平は寡聞にして初めて知ったのだが(元ジャニーズ?)、彼の演技が素晴らしい。脇を務めた真木よう子は言わずもがなのアンテーの演技だし、北村匠海の怪演も良いアクセントとなっている。
元服役者であった金子が面会を代行するという設定も良いし、二つの犯罪を絡めた物語のプロットも好い。久しぶりに映画を観て泣いてしまった。好い映画である。
一つだけ難点を言えば、オープニングの雨のシーン。あれはいただけない。この映画に限らず、最近の映画は撮影時の出演者やスタッフの拘束時間を考えてか、昔のように「雨待ち」などしない。コスパ、タイパ優先なのは分かるが、ピーカンの中の雨はいかにも不自然だ。雨を待てないのなら、雨に固執する必要はないように思う。本作ではあのシーンが晴天であっても物語は成立したはずだ。冒頭のシーンだけに残念である。
閑話休題、ウィキペディアによれば差入店とは、「拘置所・刑務所等に収監や収容されている受刑者などに差し入れる各種商品を販売している商店である」とある。そして、店によっては面会人に代わり差入物を拘置所・刑務所等に届けたり、面会したりする業務も行なっているのだそうだ。
なぜ、そうした商売が成立するかと言うと、劇中でも説明があったように刑務所等での差し入れや面会は平日の午前8時半から午後4時までとされていて、土日・祝日は原則不可である。このため、面会人が勤め人の場合や遠隔地に住んでいる場合は自ずと脚が遠のく。
また予約制度もないことから、収監先の状況によってはせっかく出向いても面会や差し入れが叶わないこともある。さらには差し入れできる品物も限られており、慣れないうちは戸惑いがちである。そういう人たちの需要があるから差入店は成立する。
観ていて、随分と前近代的だなあと思った。何がって、刑務所等の対応がである。たしかにそこに服役等している者は何らかの罪を背負っているのだから、一定程度人権が制限されるのはやむを得ない。
しかし、面会人には何の罪もないはずだ。なのに、この対応の悪さはどうだろう。応対する職員の言葉遣いも高圧的だ。これはこの映画の中だけのことなのか、それとも実態として未だにそうなのかは分からないが、後者だとすればもう少し面会人や差し入れ人のコスパやタイパに配慮しても良いと思う。少なくとも土日・祝日の対応や予約制くらい採用したらどうなのか。
そうなっても、面会人や服役者に寄り添う金子のような差入屋であれば、必ずニーズはあるに違いない。
画像引用元 MOVIE WALKER PRESS