映画『殺し屋』(主演 ロン・パールマン)

【年寄りの妄想】
悪ィ、悪ィ。こうだったら好いなあという俺の願望だよ、ラストは。そりゃあ俺だって、その昔はちったァ名の知れた殺し屋だったのさ。通称“ブリキ男”たァ、俺のことさね。えっ、知らない? 聞いたことないってか、……まあよ。映画の中でも言ったように、最近よく耳にする奴らァ皆、俺が教えたんだぜ。
ところがよォ、情けないよな。寄る年波には勝てないってかね、少し激しく動くと体が悲鳴を上げちまうんだよ。昔、へまをしたときに受けた銃創が疼く──、なんてね、ウソ、ウソ。ホントはただ単に太り過ぎで、心臓が持たないだけなのさ。
だから最近はもっぱらハードな仕事は断っている──、いやそれもウソ。そんな仕事なんて来やしないのさ。すぐに見栄を張りたがるのも年寄りの悪い癖だよな。
実際は今じゃ安っすい簡単な仕事ばかりだけど、それでも殺しの依頼は結構あるんだよ、こんな老いぼれにさ。世の中、よっぽど人を殺したい人間が多いってことだよな。
あんときだって、もっと簡単に殺れるはずだったのさ。あんとき……、そう、ソフィの部屋の前で倒れたときはマジでビビったぜ。あのまま死んじまうのかと思ったよ。
ソフィが部屋のドアを開けて介抱してくれたのは、まあ今から考えると奇跡と言うか……、ほんの気まぐれだったんだろうがなあ、普通なら知らん顔で関わらないでいるか、良くても通報するくらいじゃないか。どっかのジジイが家の前で倒れてますって、さ。
そんなだから、俺は年甲斐もなくすっかり勘違いしちまった。ほんのいっときでも、こんな年寄りに付き合ってくれたソフィには感謝してるよ。
ラストはヨリを戻したソフィとベッドを共にしていたところを誰か知らない同業者に襲われるって設定だけど、最初に言ったように俺の妄想さ。ホントのところは、ソフィにフラれてそれきり──。
そりゃそうだよな。彼女はせっかく母親の介護から解放されたってェのに、また何年もしないうちに介護が必要となりそうな俺みたいなジジイとなんてありえないもの。
台頭してきた若い同業者に殺されるってェ設定は、まあ甘受するよ。
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