映画『先生の白い嘘』(主演 奈緒)
【モラハラ男に制裁を】
居るよなあ、こういう男。そう滅多矢鱈といるわけではないが、でも確かに居る。自分だけの小理屈を、自分の中で自己完結させて納得している奴だ。
それが自分の中でだけなら良いが、たまに狭い関係性の中で相手にも振りかざす奴が居て、これが当事者にとっては甚だ迷惑だし(いわゆるモラハラだ)、傍から見ていると相当イタイ。
昔、毎朝私の乗る通勤電車に途中駅から乗ってくる若い夫婦(と思しき男女)が居て、その男の方がそうだった。
電車の中で女性の方をあれこれと叱り付けるのである。もちろん、満員電車なので周りを憚ってか小声でぶちぶち言うのだが、日本の電車内は満員でも皆静かだから、周りの者は嫌でも聞こえてしまう。その具体的なやり取りはとっくに忘れたが、あまりにも手前勝手な小理屈に私は
「そんなの、ねえよ」
と、たびたび突っ込みたくなった。
不思議だったのは、相手の女性がさしたる不満も言わず、少なくとも見た目は素直に聞き入れていたことだ。むしろ、その様子を見せられるこちらのストレスが溜まったのだった。
この映画の登場人物・早藤という男を観ていて、そんなことを思い出した。主人公の高校教師・原美鈴は、親友の美奈子のフィアンセ早藤に心も体も支配されている。だが美鈴は、男子生徒の人妻との望まない関係の相談に乗る中で彼にシンパシーを感じ、早藤と対峙する勇気を得る──。
この映画で気になったのは、『先生の白い噓』というタイトルである。「先生」というのは、もちろん美鈴のことだろうが、事なかれ主義の教師全般という見方もできる。「白い」というのは白々しいという意味だろうか。美鈴のついた白々しい「嘘」とは何だろう。
「愛も暴力も思い込み次第。どんな苦痛も無理くり幸せにしちゃう。女ってそういうえげつない生き物だろ」
そう言った早藤の言葉を、無意識のうちに実践していたとでも言うのだろうか。
翻って、あのときの満員の通勤電車で見たカップルの女性。彼女も同じ白い嘘をついていたのか──。
画像引用元 CINEMA FACTORY

