News 2026.05.29
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映画『ルノワール』(監督 早坂千絵)

映画『ルノワール』(監督 早坂千絵)

【小五の少女に迫る不条理】

監督は『PLAN75』の早坂千絵である。本作には『PLAN75』のような分かり易いメッセージ性はない。だが、観終えた後深く考えさせられる良作である。

まず、主人公の少女を小学五年生という設定にしたのが良い。小五と言えばもちろん未だ子供だが、かと言って幼さはもうない。大人の世界も少しずつ分かってくる年頃である。

そんな少女フキが、癌に侵され死にゆく父親を前にして、その不条理に戸惑い、己の無力感に苛まれながらひと夏を過ごす。

だが、全身全霊で父の死と向き合うというわけではない。そこは未だ子供で、何が起きているのか、いや起きつつあるのかよく分かっていない。だから、他の子と同じように毎日を送る。だが、分からないながらも、なんとなく大変なことになるという予感はある。「みなしごになってみたい」と作文に書いたのは、その不安の裏返しだろう。

彼女がテレパシーに傾倒したのも無理はない。不可思議な力への期待に違いないのだから。そういう状況下では大人だって、つまらないものに惑わされる。フキの母親も胡散臭い健康食品を大量に買い漁ったし、父親自身も怪しげな霊感商法に百万円を投じた。

何を隠そう、この私も妻の終末期には似たようなことをしたのだ。ちょうど、この映画の設定と同じバブル期で、カネで命が買えるとでも思ったのだろうか。今思えば、どうかしていたとしか思えない。だが何かを信じ、行動し、対価を支払うことで何とか自分を保っていたのも確かなのである。

そう、大人だって精一杯なのだ。愛する者の死にゆく姿は見ていられないから大いに戸惑い、何もできない自分を責めて途方に暮れる。一方で、日々の生活は回していかなければいけないし、死んだ後のことも考えざるを得ない。

だからフキが、あの頃大人の間で流行っていた伝言ダイヤルを利用したのも責められない。伝言ダイヤルだけが抗えない現実からの逃避場所だったのだろう。フキの母親がつまらない男との不倫にそれを求めたように。

だが過ぎゆく夏の中で、そのときはやって来た。遺された者の毎日はそれでも続いていくが、かえってフキは少女本来の明るさを取り戻したような気がする。

画像引用元 東京新聞デジタル

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