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映画『マルサの女』(監督 伊丹十三)

映画『マルサの女』(監督 伊丹十三)

【この国の財政とコップの水】

この映画を久しぶりに観たいと思って、動画配信サービスを探したが、どこも配信していないようだ。なぜだ? 監督の伊丹十三は某新聞社の調査「今こそ見たい!日本映画の巨匠」ランキング(2022年)で小津安二郎や黒澤明を抑えて1位だというのに!

調べてみると、伊丹十三監督作品は全部で10作品しかないので、あえて動画配信をしないのだそうだ。つまり、その希少性を逆手にとったブランディング戦略だというのである。それは恐らく正解だろう。動画配信サービスでは粗製乱造される大量の新作の中で、過去の名作はしばしば埋没しがちである。

そんなわけで、今回この映画を観なおすことは叶わなかったのだが、本作には今でも忘れられないシーンがある。それは裏社会や政界に通じるラブホ経営者・権藤英樹が国税統括官に蓄財するコツを講釈するシーンだ。

「あんた今、ポタポタ落ちてくる水の下にコップ置いて、水を貯めているとするわね。あんた、きっと喉が渇いたからってまだ半分しか貯まってないのに飲んじゃうだろ? これ最低だね。なみなみいっぱいになるのを待って、それでも飲んじゃダメだよ。いっぱいになって溢れて、垂れてくるやつ……」

そう言って、権藤はコップの縁から滴り落ちる水に舌を這わせる。

「これで我慢するの」

有名なシーンなので、憶えている方も多いだろう。私にとってもこれは衝撃的なシーンで以来、まとまったおカネを使う時にはこのセリフを思い出すようにしている。

しかし、これがなかなか実践できない。来月になれば新たな金が入るから、今これを買っても良いだろうとコップがいっぱいになる前に飲んでしまうのである。いつもその繰り返しなので、いつまで経ってもコップの水はいっぱいにならない。

もっとも、その実践が難しいのは私のような凡人だけではなく、この国のエリートが司っている財政でも同様なようなのだ。

国の一般会計税収の見積り額は安全を期して低めに計上するので、実績額はそれを上回ることが通常である。この数兆円規模の「上振れ額」は本来ならば先進国最悪と言われる財政赤字の補填に充てるべきだ。ところが昨今、それを給付や減税の財源にしようと与野党間で主張されているという。

これなど、権藤が言う「最低だね」──まだ半分しか貯まってないのに──よりもさらにダメな飲み方だ。

そもそも今回この映画をまた観たいと思ったのは、過日の新聞でそれを読んで、あのシーンを思い出したからである。

こういう鑑賞希望者も居るのだから、どうか動画配信サービスも考えて頂けないでしょうかね? 伊丹十三作品関係者の皆さん。

画像引用元 (ケンヂイ)クロニクル

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