News 2025.08.26
第8回Jaja’s Cinema Club 映画「ある男」を語る会 9/27(土)開催
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映画「明日の記憶」(主演 渡辺謙)

映画「明日の記憶」(主演 渡辺謙)

【その日を今から恐れても仕方ない】

この映画を最初に観たのはたしか──主人公・佐伯と同じ四〇代後半だったと思う。当時私も物忘れが酷くて、佐伯のように若年性アルツハイマーではないかと本気で心配したことを憶えている。

たとえば、普段の会話の途中で言葉の言い回しが以前のように直ぐに出てこなくなった。

「えーと、あれだ。そういうの、なんて言うのだっけ、えーと……」

あるいは、テレビを視ていても出演している芸能人の名前を思い出せなくなった。芸能人ならさして困ることはないが、仕事で他社と打合せをしていても、目の前の先方の名前を急にど忘れして焦ったりした。

こんなこともあった。

「そろそろ行きませんか? A社との会議に間に合いませんよ」と、あるとき部下の女性から突然言われた。

「えっ、今日A社との会議なんてあるんだっけ?」

「この間、言ったじゃないですか!」

普段ならそこまで言われると、おっと、いけね、そうだった、そうだったとなるのだが、そのときはまったく思い出せずに、俺って本当に「若年性…」を発症しているんじゃないだろうか、とビビった。

冒頭で「当時」と書いたが、もちろん当時だけでなく、物忘れはその後ずっとで、当然のことながら20年近く経った今の方が酷い。何のことはない。それまでは物忘れなど滅多しなかったのが、五〇を前にして頻出するようになっただけのことである。要は単なる老化の始まりだったのだ。

例によって私は医者になど行かないから、本当のところ「単なる老化」かどうかは分からない。だが、そう思うのは現在の方が物忘れは酷いものの、未だに日常生活に支障をきたすほどではないからだ。先のことは分からないが、今のところ人に迷惑をかけるほどのことはないし、佐伯のようにめまいや幻覚に悩まされることもない。

医者に診せればひょっとしたら、「いや、たしかに発症していて、貴方の場合は進行が遅いだけですよ」と言うのかもしれない。だが、なんら困っていないのにわざわざ病気のレッテルを貼られる必要もあるまい。老化そのものが病気だとする考え方だってある。だったら、黙って受け入れるしかないのだ。

そう思う中で、実はA社との会議の件は未だに納得していない。あんなに記憶がすっぽり抜けているなどということは後にも先にもないからだ。今ではくだんの女性が私に会議があることを言い忘れ、それを隠すために「言ったじゃないですか!」と強弁しただけなのではないかと思っている(違ってたらゴメンね)

画像引用元 徒然草

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