映画「フェンス」(主演 デンゼル・ワシントン)
【よく喋る男のフェンスとは】
よく喋る男、話の長い男には気を付けた方が良い──これまでの人生で得た教訓の一つである。
3分で済む事務連絡の電話に20分もかける奴。10分もあれば足りる報告に30分も費やすような奴。彼らの話は往々にして中身がない。というか、話す前に何を話すのか決めていないから、話しながら次に何を言うか考えている。その数珠つなぎになった話を延々と聞かされるが、およそ結論はないのだ。
小学校の学級委員会であれば、委員長から「意見をまとめてから手を挙げてください」と窘められるところだが、大人の社会は寛容を求められるから、その分余計にイライラする。
以前、東京のとある再開発で関わった某社責任者の話も長かった。関西出身の彼は関西弁で、会議の都度とりとめのない──仕事に関係があるのかないのか判然としない──話をいつ終わるとも知れず喋りまくった。
彼(の会社)は地権者の合意形成を担当していて、あるときその日までにAという地権者から同意書にハンコを取ってくる約束になっていた。会議をモデレートしていた私はいつもの彼の長広舌を途中で遮り尋ねた。
「で結局、Aさんのハンコはいただけたのですか?」
すると
「それがですねェ、Aさんのお嬢さんが……」と始まり、そのお嬢さんの訳の分からない話を関西弁で延々と展開するのだった。要するにハンコは取れていないのである。
そんなことが毎回繰り返された。以来私は関西弁を話す男は皆、いい加減な男だと思うようになった。関西人にとっては迷惑な話である。
この映画でも、最初から主人公トロイの長ゼリフが気になっていた。なにせ、字幕スーパーを読むのが忙しすぎて演技を見ている暇がないのだ。
よく喋るトロイは黒人であることのハンディからプロ野球選手としての人生をあきらめ、ゴミ収集車に乗って家族を養う。しかし彼は外に愛人を作り、子供までもうけてしまう。
トロイがどんな境遇にあったとしても──たとえ彼の言う通り生まれた時から2ストライクだったとしたって──、彼のしたことを正当化できるだろうか?
彼は一体何と戦っていたのだろう。自宅をフェンスで囲ってまでして何を恐れていたのか。たぶん彼は自分と戦っていたのだ。過去の自分であったり、不義を働く自分であったり……。
トロイに限らずよく喋る男、話の長い男は皆、喋ることで自らの周りにフェンスをめぐらしている。
画像引用元 Amazon Prime Video