映画「パブリック 図書館の奇跡」(監督・主演 エミリオ・エステベス)
【正解のない中でお役人は大変だ】
当館の南隣は浜松市が管理する古墳緑地になっていて、私はその斜面の木々が織りなす四季折々の変化を楽しんで暮らしていました。
しかしあるとき、それらの木々が浜松市によってほとんど伐採されてしまったのです。驚いた私は直ぐに市の担当部署に問い合わせました。
「どうして伐っちゃうのですか? 街なかでは貴重な纏まった緑ですよ」
すると、担当者は
「いや、周辺の住民の方から、この緑地から落ちる枯れ葉が雨どいを詰まらせているので、伐採してくれと言われたものですから……」直ぐに対応したのだ、との一点張りでまったく話が嚙み合いませんでした。
まあでも、たしかにお役人は大変です。こうした市民Aのクレームに対応したら、市民Bが異議を唱えるというケースは日常的にあることなのでしょう。そこで、一定のルール(原理原則)を設けることになるのでしょうが、すると今度は臨機応変な対応ができずに柔軟性がないだの、お役所的だのと批判されます。
この映画のケースだって、一旦こうした例外──大寒波の夜に路上生活者を公立図書館に泊める──を認めれば、毎晩泊ることを要求する者も現れることが容易に予想できます。したがって勢い「NO」と言わざるを得なくなるのでしょう。
「目の前で凍死する者がいたとしてもか? 良いじゃないか、毎晩泊らせてあげたら! 夜の図書館なんてスペースは空いているのだから」
そういうのは簡単です。しかし、それを認めればそれを求める路上生活者──ひいては路上生活者自体が増え続け、いずれスペースが不足するだけでなく、むしろ社会的な問題を大きくするのは目に見えています。
正解はありません。したがって、この映画の終わり方もスカッとはしません。当館南の緑地のあり方もしかりか──。
画像引用元 パブリック 図書館の奇跡公式サイト