映画「コンパートメントNo.6」(監督 ユホ・クオスマネン)
【面白い話ではないけどジワる映画】
最近、映画を観ても観た時間を返せと言いたくなるようなものが多い。特に動画配信サイトのそこでしか観られないという「〇〇オリジナル」は要注意だ。粗製乱造の感が強い。時間がもったいないからと、若い人の中には倍速で観る人もいるそうだが、その気持ちは分からないでもない。
だが、だからと言って自分ではやらないのは、倍速にしてストーリーだけを追っても、その映画の好さは分からないからである。
時間は節約したい、でも映画も堪能したいという相反するニーズに応えるためだろうか、ここにきて20~40分程度のショートムービーも数多く見かける。だが、本当に好いと思える作品には未だ出会ったことがない。
そこで、相変わらず長編映画を中心に観ているのだが、その際には開始15分でこのまま観続けるか、止めるかを判断することにしている。
そうした私の作戦を見破ってか、ハリウッド系の映画は敵もさるもの物語の立ち上がりが早く、簡単には止めさせない。それに比べ、ヨーロッパの映画は客に媚びないというか、こちらの気持ちなどまるで無頓着のようだ。
この映画も15分を過ぎたところで止めようかと思った。面白くないのである。物語は、同性の恋人と行くはずだったロシア辺境への旅を彼女のドタキャンで一人で行く羽目になった女性が、旅の途上で離れていく恋人の心と途中駅の殺風景な佇まいに寂寥を感じながらも、寝台列車で同室となった男と徐々に距離を縮めていくというものである。「コンパートメントNo.6」というタイトルは、彼女たちの客室番号だろうか。
15分どころか、30分経とうが、1時間を過ぎようが、大して盛り上がりもしない。しかし、なぜか止める気にはなれなかったのである。
同室の男の第一印象は最悪である。鋭い目をして野卑で酒浸りだ。女性の方も決して美人とは言えないし、何と言っても愛想が悪い。およそ魅力的な女性とは言い難い。だが、そのぶんリアリティがある。距離を詰めた後、彼らが安直に男女の関係にならないのも好感が持てる。
そうこうしているうちに結局、最後まで観てしまった。最後まで観てもやっぱり面白い映画ではなかったが、観た時間を返せとは思わなかった。わりと好かったのかもしれない。ジワる映画と言うべきかな。開始15分で止めなかったのは、きっとその予感がしたからである。
画像引用元 カラクリシネマ