映画「インサイド・マン2」(監督 マイケル・J・バセット)

【トリックスターに翻弄されるな】
2006年に公開された「インサイド・マン」の続編。デンゼル・ワシントン、クライヴ・オーウェン、ジョディ・フォスター等の大物俳優が居並ぶ前作に比べると些かしょぼい印象は否めないが、銀行強盗に絡むトリックは本作もそれなりに面白かった。
前作のそれは、犯人が銀行内の倉庫の壁を二重にして、事件のほとぼりが冷めるまで身を隠し、その後に白昼堂々と正面玄関から出るというものだった。今回のトリックは……ネタバレになるのでやめておくが、白昼堂々という点は変わらない。
ここで注目したいのは、いずれも真の目的はカネや金の延べ棒などではないというところだ。本作の犯人グループの女リーダーが、人質にした女性のFBI捜査官に言う。
「複雑な問題を与えて前頭前野を忙しくさせる。大きな流れに注意を向けさせ、突然の出来事で気を逸らす。脳の感覚野が刺激に反応するのは抑えようがない」
「認識を操作し、別の現実を見せるわけね」
「正解。手品をするコツよ」
このやり取りを観ていて、なるほど、と思った。そうか、そういうことかと私が膝を打ったのはこの映画についてではない。今年1月に就任して以来、世界をお騒がせしている某国の大統領のことだ。
やれグリーンランドを買収して領土にするだの、やれカナダを51番目の州にするだの、あげくは世界各国に相互関税を課すなどと矢継ぎ早にいろんな問題を投げかけて人々の前頭前野を刺激する。これに対しマスコミ等世間の論調は、かの大統領は経済オンチなのだ、10歳程度の理解力しかないのだと揶揄するものが目立つが、かねて私は本当にそうなのだろうかと思っている。
仮に彼はそうだとしても、さすがに頭脳で世界をリードしてきたあの国の側近たちもが皆バカということはあるまい。相互関税など課したら金融市場がどうなるか、世界経済はもちろん、自国のそれがどうなるかなんて分かっていたはずだ。
もちろん彼お得意のディールとやらでは、最初にビーンボールまがいの速球を内角高めへ投げるというのが常套手段である。その後あたかも譲歩したかのように要求を下げて交渉を成立させる──なんてことは、私もその昔よく使った手である。だから多くの識者が指摘するように、その可能性は高い。
だが、このシリーズの犯人のように、本当の目的はまったく別のところにあるという可能性も考えておく必要があるだろう。かの大統領はトリックスターに過ぎないという可能性である。もちろん、途方もない陰謀論を言い出すつもりはまったくない。もっと現実的な真の狙いを我々は見破らねばならない──と、この映画を観ていて思った次第。
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