News 2025.12.01
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新書『平清盛 天皇に翻弄された平氏一族』(武光誠)

新書『平清盛 天皇に翻弄された平氏一族』(武光誠)

【奢れる人は誰で、久しからずはどのくらい?】

『平家物語』の書き出し「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。(中略)奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」が好きだ。

この世のあらゆることは絶えず移り変わっていくし、どんなに権勢を誇る者もいずれ必ず滅びるし、今を得意満面な奴だって春の世の夢のように長くは続かない──。科学の発達した現代にも通じる、いや永遠の真理と言って良いだろう。

もちろんこれは、当時の平氏(本書によれば、政権をとったのは平家という「家」(イエ)ではなく、家の集合体である「氏」(ウジ)なのだから、「平氏」というのが正しいらしい)の栄華と没落を言ったものである。それは誰もが知るところだが、ではその「奢れる人」がどの程度「久しからず」だったのか、ちゃんと認識している現代人は意外と少ないのではないだろうか。

たとえば、浅学な私などは平氏の天下は何世紀も続いたように思い込んでいた。だが本書を読むと、平清盛が太政大臣になったのが1167年で、そこから源平合戦で壇ノ浦の戦いに敗れる1185年までが平氏の天下だとされるから、僅か20年足らずだったようである。20年なんて現代の民主的であるはずの大企業だって、君臨するワンマン社長が居そうである。まさに奢れる人は久しからずか……。

なぜ、何世紀も続いたかのような勘違いをしていたのだろうか。一つには、「平家にあらずんば人にあらず」という放言の印象が強すぎたのかもしれない。当時そう言わしめた空気があったことは事実だろうし、そこまで言うからには何世代も栄華が続いたのだろう、と後年を生きる私が勘違いしてしまったのだと思う。

もう一つは、「平氏の祟り」や「平氏の落人伝説」といったおどろおどろしい話も関係しているかもしれない。長く言い伝えられるからには、よほど平氏の権勢も長く続いたのだろうと……、これも勝手な思い込みである。

ちなみに、先述の「平家にあらずんば人にあらず」は、私は本書を読むまでは平清盛が言ったのだと決めつけていたのだが、実際は清盛の義弟・時忠の言葉らしい。

「奢れる人」の代表のように捉えていた清盛だが、本書によれば彼は武士でありながら貴族社会と親しく交流できるほどの教養を持っていたし、配下の者にも優しく接していたバランス感覚のある傑物だったようである。だがその彼も奢れる人になったのか、強引な福原遷都で貴族の支持を失う。

彼はまさに春の世の夢のような一瞬の煌めきだったのだ……。

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