新書『ハプスブルク三都物語』(河野純一)
【ハプスブルク家の記述無し】
ヨーロッパの名家については、一度ちゃんと勉強しなければとかねがね思っていた。このハプスブルク家を始め、ブルボン家、メディチ家、ロマノフ家、それからロスチャイルド家なんていうのも耳にするが、これらについて私は何も知らないのだ。
そこで、筆頭に位置すると言われるハプスブルク家について学ぶことにした。こうしたときに手っ取り早く、かつ質の高い知識を得ることが出来るのが新書である。
当館には本書のほか、その名もズバリ『ハプスブルク家』(江村洋)と『名画で読み解くハプスブルク家12の物語』(中野京子)という2冊の新書があった。私の蔵書ではないから、おそらく寄贈本だ。迷ったあげく本書から読むことにしたのは、私が長いこと都市計画、都市開発を生業としてきたので、都市を中心にハプスブルク家を語ってくれるのなら、それが一番理解しやすいと思ったからである。
しかし、その目論見は外れた。たしかにウィーン、プラハ、ブダペストの三都市について語っているのだが、肝心のハプスブルク家の記述がほとんどないではないか! 著者はまるで「そんなのは常識だから、その常識を踏まえて読んでくれたまえ」と言っているかのようだ。
仕方がないと腹を括り、この際ハプスブルク家は置いておいて、この三都市について知るのも悪くないだろうと読み進めると、地図や写真、挿絵等があまりに少ない。そのため、書いてあることがさっぱり理解できないのである。地図はなんと巻末にあることに途中で気が付いたが、この地図も実に簡略なもので、本文中で触れている地物の多くが示されていない。
そもそも都市を語るのに、地形・地勢を示す図版がないのは致命的である。都市の形成は、地形や地勢に左右されるのが必然だからだ。例えばこれら三都市は、ドナウ川やモルダウ川の河畔に出来ているが、その川はどっちからどっちへ流れているのか(本書には「川の右岸」とか、「左岸」とかという記述が頻出するが、どっちが川下か分からなければ右岸・左岸も分からない)。
もっとも最近は他の新書を読んでいても、説明図の類が少なすぎると感じる。特に理工系がテーマの新書では百の言葉より一つの図版が欲しいと思うことがしばしばだ。この点、各出版社の新書編集者はもう少し頑張って欲しいと思う。これでは、専門分野の手頃な入門書という新書の役割を果たせないではないか!
それはさておき、この著者が書きたかったのはハプスブルク家でも、3つの都市の形成についてでもなく、どうやらこれらの都市で培われてきた音楽についてだったようだ。他にも三都市の建築物やカフェ文化等に言及があるが、音楽に関する記述だけが生き生きとしているもの。

