News 2026.04.05
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小説『BUTTER』(柚木麻子)

小説『BUTTER』(柚木麻子)

【バター醬油御飯の誘惑】

のっけからおゲレツというか、テーゾクな話で恐縮だが、AV(アダルトビデオ)には「熟女もの」と呼ばれるジャンルがある。普通に考えると、若くてスレンダーな女優のそれが売れ筋だと思いがちだが、実は一番売れるのはその「熟女もの」らしい。ギョーカイ通から聞いたことがある。決してぴちぴちとは言えず、体の線も崩れた女優のAVが、中高年の男性のみならず、若い世代にも安定した人気があるのだと。

本作の主人公で週刊誌記者の町田里佳が追いかけるのは、中高年男性3人から金品を巻き上げ、あげく彼らを殺害したとされて収監中の梶井真奈子である。梶井は決して若くも美しくもなく、体重は70キロオーバーである。

15年ほど前に実際にあった事件をモチーフにしているようだが、本作は事件の解明が主題ではない。したがって、なぜ亡くなった男性たちがそのような女性に絡めとられたのかは判然としない。

里佳は、事件の取材は一切受け付けないという梶井に、「貴方の作った料理のレシピが知りたい」と申し出て面会に成功する。梶井は逮捕前、自分の作る料理や高級レストラン等での外食の様子を紹介するブログがそれなりの人気を博していた。

私はその辺りを読んで

「うわっ、ますますムリ!」と思った。

梶井と同様なことをSNS等で発信している女性は多いし、もちろんそれ自体は悪いことではないから、私ごときがとやかく言うつもりは毛頭ない。

私がムリ!と思ったのは、かつて初対面の私にそのフォロワー数を自慢した女性を思い出したからである。まるでその数で人間の価値が決まるとでも言いたげに彼女は胸を張った──が、そのブログ記事は陳腐で手垢の付いた表現が満載の食レポが主だった。

さて、梶井が里佳に授けた最初のレシピはなんとバター醬油御飯である。エシレというブランド・バターを載せた白米を口に運ぶと、ふわりと、舞い上がるのではなく、落ちる──エレベーターですっと1階下に落ちる感じがするのだと言う。陳腐とは言い難い描写である。

その後、里佳は梶井の指示する料理を実際に作ったり、外食先を訪れたりするうちにどんどん太っていく。だが、里佳はなんら罪悪感を覚えず、むしろ開放されていくような心持ちになる。知らず知らずのうちに里佳も梶井に絡めとられていくのだ。

最終的には里佳は梶井の呪縛から解き放たれる。そのカラクリは分かったようでよく分からなかったが、それこそがこの小説の真骨頂だと言えるだろう。そこには、1+1=2というような明快な理屈は存在しない。

読み終えて私も少しだけ考えが変わった。女性はぴちぴちのスレンダーである必要はないのかもしれない。──私も絡めとられたのか???

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