小説「火口のふたり」(白石 一文 作)
2021
1
25
小説「火口のふたり」(白石 一文 作)
突然ですが、マルチン・ルターの「明日世界が終わろうとも今日私はリンゴの木を植える」という言葉が好きです。
さて、富士山が噴火しようとしまいと、原発が制御不能になろうとなるまいと私たちには死という結末しかありません。そのことは確定済みなのです。
だからと言って、毎日を自堕落に生きる訳にはいきません。座して死を待つ訳にもいきません。それまでをどう生きるか──終盤に直子が賢治に「何も決めないのか」と迫ったのは、そういうことだと思います。彼女はその覚悟ができたようですね。
火山と原発を抱えるこの国と賢治の自堕落な生き方。それぞれの危うさが重なって見えました。
冒頭のルターの言葉が好きな私ですが、ともすると賢治と同様に自堕落になりがちです。この歳でそうなれば、座して死を待つことと同義でしょう。一念発起して浜松に戻りここを開いたのは、そんな理由もあります。