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小説「乙女の密告」(赤染晶子)

小説「乙女の密告」(赤染晶子)

【世間という有象無象が…】

女子学生が圧倒的に多いという外国語大学でドイツ語を学ぶ主人公みか子が、学内のスピーチコンテストに臨む物語である。担当のバッハマン教授がみか子たち2年生に課したのは「ヘト・アハテルハイス」(「アンネの日記」の原題)の暗唱スピーチ。しかし、ひょんなことから教授と二人でいるところを誰かに見られ、学内であらぬ噂を立てられてしまう──。

「アンネの日記」をちゃんと読んでいない私がこんなことを言うのはいささか気が引けるが、何不自由ない現代の女子大生が抱える卑近な悩みとあのアンネ・フランクの置かれた悲惨な状況を重ねるのは、率直に言って無理があるように思った。

本作の芥川賞選考の際に、選考委員の一人だった石原慎太郎が酷評したのは理解できる。先の大戦をアンネ・フランクと同じ年ごろで体験した彼からすれば、不謹慎にさえ思えたことだろう。私とて戦争を知っているわけではないが、読後の感想は石原のそれに近かった。

しかしよく考えてみると、本作で言っている「乙女」がそのままの意味でないことは明白である(イマドキ乙女って…ねえ)。主人公の純潔が乙女の密告によって破壊される──この場合の乙女とは「世間」であろうとの指摘がネットにあった。たしかにそう考えると収まりが良いかもしれない。

先ごろ世間を騒がせた某有名タレントと女子アナウンサーをめぐるフジテレビの騒動にも共通すると思うのだが結局、世間という乙女が騒ぎ立てているだけなのだ。世間が一人の青年を国民的タレントだと勝手にまつりあげ、ひとたび問題を起こせば今や壮年となった彼を鬼畜だとばかりに徹底的に叩く──。

もちろん、某タレントやその問題を巡るフジテレビの対応を擁護する気はまったくない。また、被害にあった女子アナについては大変気の毒なことだったに違いないが、果たしてあそこまで執拗に世間が騒ぎ立てるようなことなのか、と個人的には思う(もっともあの件についてはほとんど興味がないので何も知らないのだけれど…)。

アンネ・フランクを密告したのも世間という怪物なら、女子大生みか子の噂を立てたのも乙女という世間なのである。要するに、いつの時代もこの世で一番怖いのは、そうしたことに興味本位で群がる世間という有象無象なのだ。

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