テレビドラマ「2020年 五月の恋」(出演 大泉洋 吉田羊)

【誤発信から始まる新たな物語】
一つ10分余りの短いエピソードが4つ。出演者は大泉洋と吉田羊の2人だけ。画面が二つに分かれ、元夫婦の2人がそれぞれの自宅でスマホを通してやりとりをする。その様子だけを描く実験的なドラマである。
これが思いがけず面白かったのである。もっとも、2人とも私が好きな役者であるということは、その評価からいくらか割り引かねばならない。
大泉洋に関しては、今やすっかり大物タレントの仲間入りを果たしているが、北海道テレビの「水曜どうでしょう」の頃から視ている者としては、その出世ぶりが嬉しい反面、少々やっかみもあって複雑な気持ちだ。とはいえ、当時から発揮していた彼独特の軽妙さはまさにタレント(=才能)である。
また吉田羊については以前も書いたので詳述を避けるが、昔愛した女性に何となく雰囲気が似ていることもあって単純に好きなのである。もちろん、下積み時代が長かったという彼女の演技力も評価した上でのことだ。
その2人が元夫婦を演じる。そのやりとりが実に自然で、「ああ、離婚した男と女がその後初めて交わす会話は、きっとこんな感じなのだろう」と思わせる。
事の始まりはこうだ。元夫であるモトオがコロナ禍で自宅勤務中にマグカップを倒す。スマホが濡れぬよう慌てて取ろうとして彼は間違って元妻ユキコの電話番号を押してしまう。
「あっと、やっちゃった。どうしよう。切るのもヘンだしな……」
とモトオは逡巡する。そうこうしているうちに、図らずもユキコが電話に出て、その後物語が展開していく。
これについては、私も経験がある。まさに件(くだん)の吉田羊似の彼女と別れた数ヶ月後、スマホの連絡帳から他の人に電話をしたつもりが、誤ってその下にあった彼女の番号をタップしてしまったのだ(一瞬、彼女の名前が目に入ったのがいけなかった)。
直ぐに切ろうと思った。が、私もあのとき迷った。たしかに切るのも憚られるのだ。今切っても、彼女のスマホには履歴が残るんだよな、と。だったら……、でもやっぱり……などとあれこれ考えている間、呼び出しコールは無味乾燥に鳴り続けた。
だが、彼女が電話に出ることはなかった。私たちの新たな物語は始まらなかったのだ。
ホントは間違って掛けたんじゃないんでしょ、って? いや、マジで誤発信だから!
画像引用元 TVdrome