テレビドラマ「私のトナカイちゃん」(製作総指揮・脚本・主演 リチャード・ガッド)

【ストーカーによって満たされる?】
昨年、世界で最も検索されたドラマだと言う。テレビ番組のアカデミー賞とも言われるエミー賞の11部門にノミネートされ、リミテッドシリーズ部門で見事栄冠を勝ち取ったのだとか。
一言で言ってしまえば女性ストーカーの話だが、ストーキングされる方にもいろいろありまして……というドラマだ。
田舎出の売れない芸人ドニーが、あるときバイト先のパブに現れた一見客マーサに紅茶を一杯おごる。ひとり項垂れて座っている彼女を不憫に思ってのことだ。だが、そのちょっとした心遣いを勘違いされ、以後マーサにつきまとわれることになる──。
毎晩大量のメールを送られたり、バイト先や出演する舞台はもちろん自宅にまで押しかけられたりして、たしかにドニーは大いに悩まされる。しかしその一方で彼女を完全には拒否らない。彼はどこかそれを待っているようなフシがあるのだ。
それは、ぱっとしない毎日のドニーを唯一、認めてくれるのがストーカーであるマーサだからだろう。マーサだけが彼の承認欲求を満たしてくれる。マーサもそこにある種の手ごたえを感じるから、ストーキングに拍車がかかるのだ。
世の中、実際にストーカーに悩まされている人は多いようだし、なかには殺傷事件にまで発展するケースもままある昨今だから、ここで効いた風なことを迂闊に書くつもりはない。
しかし、このドニーに限って言えば、芸人としての社会的属性が満たされていないこと、また彼自身の性的倒錯もあって愛情も満ち足りていないこと、つまり「マズローの欲求段階説」で言うところの「承認欲求」の一つ前の段階「社会的欲求と愛の欲求」が満たされていないことが問題をこじらせているような気がする。
タイトルから、コメディを想像する向きもあると思うが、そんなわけで観ていて楽しくなるようなドラマではない。結局、世界で最も検索はされても、最も視聴されたわけではない(?)のはその辺りが原因かもしれない。
画像引用元 海外ドラマNAVI