テレビドラマ「ブレイクスルー」(主演 ピーター・エガース)

【北欧の労働生産性って本当?】
以前、「北欧ミステリーあるある」について書いたときにも触れたが、彼の地のドラマや映画では主人公(多くの場合、刑事)がワーカホリックのごとく働いて、私生活に支障をきたすというパターンが実に多い。このドラマもまさにそうだ。しかしこれだけパターン化されているということは、これはきっと刑事だけがそうなのではなく、北欧の多くの労働者に共通した事象なのではないだろうか。でなければ、ドラマとして共感が得られまい。
これもあのときに指摘したが、北欧は労働時間が短いわりに一人当たりのGDPが高く、労働生産性が高いとされている。ちなみにこのドラマの舞台、スウェーデンの時間当たり労働生産性は91.4ドル。これに対し、日本は52.3ドル(いずれも購買力平価換算USドル。2022年)である。
これらの数値を取り上げて北欧がまるで短時間労働でたくさん稼げる楽園かのように喧伝し、日本も見習えと一部の識者は言うが、こうした北欧のドラマなどを見ていると、少し様相が違うのではないかと思うのである。これらのドラマでは上司が判で押したように言う。
「働き過ぎだ。家に帰って休め」と。決して本人の身体を気遣って言っているのではない。日本と同じで上層部からそう言うよう指導されているだけだ。
しかし、仕事(事件)を抱えた主人公は休んでなどいられないから結局、家に持ち帰って仕事(捜査)を進めるのだ。これも日本と変わらない。だが、彼らはそこで進めた仕事は残業として付けないのではないか。だとすれば、統計上の数値には表れない。
たしかに彼の地は制度上の労働時間が短いから、その時間しか働かない労働者もいるだろう。だが、一方で数値に表れないところで働いている人もドラマを見る限り多いように思える。
ただ、彼らはその仕事が好きで(自らの意志で積極的に?)やっているように見える。「サービス残業」と否定的に捉える日本との違いは、そこかもしれない。
この辺りは私も前職の設計事務所で感じていた。建築を生業とするのは多くの場合、好きだからだ。いくら時間をかけてでも良いものを造りたいという思いがある。だが、会社は働き方改革とかで「帰れ、帰れ」と言うのだ。しかも家に持ち帰るのもご法度だと。それでいて、成果も上げろって……無理じゃね?
北欧では、決められた時間だけ働き私生活を満喫するも良し、残業として付けないが時間外も働くことで成果を上げ仕事で評価されるも良しということで、各人がそれぞれの意志で選択できるのだろう。
収入は少なくても私生活を充実させるか、私生活を犠牲にしてでも仕事で満足感を得るか──、この主人公の半生は後者だったようだ。幸せだったかどうかは分からない。
画像引用元 Netflix