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書籍「幻想ネーミング辞典」

書籍「幻想ネーミング辞典」

【名前は大事です】

命名、名づけ、ネーミングというのは実に難しい。考えて考え抜いたあげく決めた名前が失敗だった、なんてことがよくある。

ネット上のハンドルネーム等であれば、これは違ったかなと思ったら、すぐに変えればよいだけのことだが、我が子の名前、会社の名前、店の名前などになると、一度つけたらおいそれとは変えられない。

私は自分の会社を作ったときに、その社名の命名で失敗している。前職では長いこと企画部門にいたので、奇をてらうことなく最初は私の姓を取って「大場企画」にしようと思った。が、よく考えると何だか怪しげな芸能プロダクションの名前のような気がしないでもない。

では……、ということで「大場企画」を一旦Ohba Planningと英語表記にして、それをカタカナで「オオバ・プランニング」としてみた。今から考えると、たぶんそれで良かったのだ。

ところが、「どうせなら、ちょっと捻りたいな」などと思ってしまったのである。ビートルズもThe Beetlesとはせずに、The Beatlesとあえてスペルミスを採用したではないかと──。

そこでまず「オオバ」を「オーバ」にした。そして「プランニング」をネイティブ風に「プラニング」とした。オーバ・プラニング──どうだ、これなら意味も通じるし、ほかと間違われることもあるまいと自画自賛し、そのまま法人登記した。

ところがその後、電話で社名を伝えるたびにすこぶる面倒であることに気付かされた。

「会社名を正式名称で教えてください」と先方。

「はい、合同会社オーバ・プラニングと言います。オーバ・プラニングは全部カタカナですが、オーバのオーはオオではなくて、オーとしてください」

こうして文字にすれば一目瞭然だが、電話口でその違いを示すのは結構難しい。

「はい?」

「棒で伸ばして欲しいんです」と私は虚空に向かい、指先を大きく横に振るが、もちろん先方には見えない。

「棒? 棒がなんですって?」

「いや、ですから、オ、オではなくて、オの後は横棒で…」

「ああ、オーですね。はいはい、わかりました」

「(「はい」は1回で良いんだよ…)それからですね、オーバの後にはナカグロの点が入ります」

「はい、ナカグロですね。承知しました」

ちなみに、ナカグロという言葉を知らない人も多いので、そこでも苦労するが、その様子は割愛する。

「それからプラニングはプランニングではなくてプラニングなので、お間違いなく」

だいたいこの辺で、先方から‘面倒くさい野郎だな臭’が電話越しに伝わってくる。

「えっ? もう一度……」

「ですから、プ、ラ、ニ、ン、グです。プランニングではなくて、プラニング」

「え? ……プランニングですよね?」

「じゃなくて、ラとニの間にンは入らないんです」

「はあ、ラとニ? プラ……、プラニングですか?」

「そうです!(最初から言ってるだろ!)」と、毎回キレ気味になってしまう。

この「プラニング問題」は殊の外深刻で、特に注意を促さないとメール等でも9割以上の人が「プランニング」と返信してくる。

ネーミングは捻り過ぎてはいけない。

 

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