News 2024.11.07
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書籍「きもちのいい家」(手塚貴晴 手塚由比)

書籍「きもちのいい家」(手塚貴晴 手塚由比)

【高校生の私、ナイス!】

高校時代、私は古文・漢文が苦手で、現国もどちらというと嫌いでした。英語は比較的得意でしたが、やはり答のはっきり出る数学や物理が好きでした。よって自ずと早い段階で理系の大学を目指すことになりました。

文系と違って理系(特に工学部)の場合、入る学科が将来の職業に直結します。そこで、さて何学科にしようかと思案した時に、そう言えば子供の頃から新聞の折り込みチラシの住宅の間取り図を見るのが好きだったな、と思って建築学科に入ろうと決めました(たったそれだけの理由で)。

ところが、私は高校三年の秋から冬にかけて急激に成績を落としてしまいます。

「今の成績だと、お前の行きたがっている大学の建築学科にはとても入れないぞ」

と担任の先生が進路指導の席で溜め息交じりに言いました。

「はあ」

「どうする? 大学のレベルを落とすか、あるいは同じ大学でも土木工学科なら入れるかもしれないな」

「…………」

急な選択を迫られて答を出しかねていると、先生が赤本を見ながら続けました。

「ここの土木工学科は都市計画が有名みたいだから、都市計画をやれば良いんじゃないか。建物一つひとつより都市全体を扱う、ってのはどうだ?」

「あ、はい、じゃあ土木工学科にします」

自分でもびっくりするほど、あっさり答えていました。そう言えば、子供の頃から未来の街の絵を描くのが好きだったな――、などと思いながら。子供の頃はご多分に漏れず色んな事が好きだったので、後付けの理由には事欠かないのでした。

要はその程度の理由で、あっさりと建築を諦めたのですが、それは今から思うと正解でした。というのは、大学卒業後40年以上建築屋と一緒に仕事をしてきて、建築とは(総合芸術であると言われるだけあって)何と緻密な検討の集合体か! と感じているからです。なおかつ、全体の調和が何よりも求められる――。そんな仕事は、大雑把で諦めの早い性格の私にはとても向きません。高校生の私、ナイス判断! と褒めてあげたいくらいです。

それでも建築の本や雑誌を眺めるのは今でも好きで、書店でよく手に取ります。この本もそうして買った一冊で、著者の建築家夫婦が自らの作品を素人にも分かり易く紹介しています。

彼らの建築は、一言で言うと「敷地の特長(その敷地の一番のウリ)を最大限生かす」ことでしょうか。その考え方は、この私設図書館兼自宅を建てる時に存分に生かしました。

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