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小説「ナニカアル」(桐野夏生)

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【真に愛されていたかなんて知る由もない】

戦争に翻弄された作家・林芙美子の半生を描く物語ですが私は彼女自身よりも、一人の女性からこんなにも愛される男はなんと幸せなことだろうと思いながら読み進めました。翻って私は、これまでの人生を思い起こすにつけ、これほどまでに女性に愛されたことがあっただろうかと──。

それは、私の六〇余年の人生で関係した女性の多くが半ば無理やり首を縦に振らせて(ありていに言えば、強引に口説いて)、そうなったからに他なりません。その時々は口説き落としたつもりになって、それで満足していた(あるいは得意になっていた)のですが、今思うと彼女たちの本当の気持ちはどうだったのか──真に私を愛してくれたのだろうか──、甚だ心許ありません。

しかし、たとえ彼女たちがどんなに私を愛してくれていたとしても、この物語の主人公・芙美子がそうだったように、女性はほんの些細な諍いで気持ちが冷えるようです。

そうなれば男は、それまでその女性にどれだけ愛されていたかだなんて、もはや知る由もありません。今の私のように──。

 

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